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大阪高等裁判所 昭和43年(う)1366号 判決

被告人 森岡功

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金五万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金千円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

押収にかかる貯金預入報告書一一九枚(大阪高裁昭和四三年押第三六四号)の各虚偽記載部分は、いずれもこれを没収する。

当審における訴訟費用(解任された国選弁護人に支給した分)は被告人の負担とする。

本件公訴事実中業務上横領の点については無罪。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人阿部甚吉作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

判示第一事実に関する事実誤認もしくは法令適用違背の主張について。

所論は、要するに、原判示第一の事実につき業務上横領罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼす事実の誤認もしくは法令の適用の誤りがある。すなわち、原判決は、「被告人は神戸東御影郵便局長に任命され、分任出納官吏として、同局における公金の出納保管に関する業務に従事中、同局の預金の受入や特に払出の取扱高を増加させることにより、同局の支払準備資金の基準高に関する実績を作ろうと考え、別表(一)記載のとおり、昭和四二年三月一五日頃から同年六月一三日頃までの間、金額総計二〇、八〇〇、〇〇〇円の振出人被告人名義の神戸銀行御影支店宛小切手合計二二通を作成した上、寺岡兼治ほか六名名義の郵便貯金通帳にそれぞれその額面と同一金額をもつて預入し、郵便貯金法三四条の規定によれば、小切手が決済された後でなければ、右貯金の現在高が右小切手による預入金額を下るような払いもどしをすることができないのにかかわらず、これに違反して、右預入小切手の宛名銀行における被告人名義の当座預金口座に当該小切手の支払い資金として預け入れるため、右小切手が決済されないうちに、業務上保管する公金から払いもどし、右貯金の現在高を右小切手による預入金額より総計二〇、七三七、四一〇円だけ下らせ、もつて被告人の業務上保管する同金額の公金を着服して横領した」旨判示し、業務上横領罪の成立を認めている。しかし、被告人は貯金者の不便を解消し貯金事業の推進を図る目的で、その手段として東御影郵便局の支払準備資金の基準高に関する実績を作るため本件犯行を企図し、郵便貯金法三四条に違反して払出し、被告人名義の当座預金口座に支払い資金として振り込んだものである。従つて反射的には、被告人名義の小切手を決済するという被告人自身の利益にもなつているが、もつぱら国の利益を図るための処置であり、被告人の一般的権限内の行為であるから、たとえ郵便貯金法に反するとしても、これをもつて直ちに横領行為とはいえない。本件の場合、被告人には国に損害を与える意思がなく、国に全然損害を生じていないし、また被告人に利得を図る意思がなく、現に利得した形跡もないから、被告人には横領罪の成立に必要な不法領得の意思を欠くもので、本件所為は業務上横領罪にならない旨主張するのである。

そこで、所論に鑑み記録を精査し、原審で取調べた各証拠に当審における事実取調の結果を総合して考察するに、本件犯行の経緯は次のとおりである。

一  被告人は、昭和四二年二月一六日神戸東御影郵便局(特定局)の開設と同時に同郵便局長に任命され、分任出納官吏として同局における公金の出納保管に関する業務に従事していたものである。

二  特定郵便局の最も重要な仕事は郵便貯金の獲得であるが、郵政当局においては、貯金の獲得について各局に対し一年間の目標額を示し、各局からの報告に基づき各局毎に目標額に対する達成率を表にして配り、成績優良の局に対しては表影を行なう等、その成績の向上を奨励している実情である。

三  貯金の預入があれば当然貯金の払いもどし請求があるが、各種の払出しに必要な支払準備資金については、大別して、前日の残金をある限度をきめて郵便局の金庫に保管して置く方法と、銀行預金局に指定され最寄りの銀行に郵便局の残金を預金しておいて、毎朝銀行から持つて来てもらう方法との二つがあるが、前者の場合には郵便局に留め置く限度額が比較的少い(神戸東御影局の場合は約四〇万円限度)のに対し、銀行預金局の場合は約百万円の限度額が認められるので、被告人は開局後郵政当局に対し、銀行預金局に指定してもらいたい旨陳情したが、新設後日が浅いため認めてもらえなかつた。

ところで、郵便局に留め置くべき支払準備資金については、一定の基準が定められ、前年同月の一日平均の払出高をもとにして算定されるのであるが、神戸東御影郵便局は新設局で前年の実績がないため、郵政当局から一応一週間前の払出高を基準とするように指示された。そして各局における資金留置額は各局から毎日送付する出納日報によつて大阪郵政局調査課で監査し、基準を超えて多額を留め置いた場合には注意通達をすることになつているものである。結局払出高の多寡によつて支払準備資金の基準高の多寡がきまることになるわけである。

四  ところで支払準備資金が小額であると、高額の払いもどし請求や一時に払いもどし請求が集中すると、手持ちの資金に不足を来たし、即時に応じられないことになり、この場合は、その不足分を資金授受局である東灘郵便局へ行つて所定の手続をして資金を出してもらい、これを自局へ持ち帰つて貯金の払出しをすることになり、その間約一時間を要し、払いもどし請求者を待たせることになる。そこで被告人は、大口貯金者を獲得しても払いもどすときに長く待たされるような状態では貯金者が離反し、他の金融機関に客を取られ、郵便貯金の獲得の障害にもなりかねないと懸念し、支払準備資金を増加させることにより多額の払いもどし請求にも即時応ずることができるようにして貯金者の便宜を図れば、ひいて貯金の獲得を増加させる結果を招くものと考え、形式的に貯金の払出高を増加させることにより支払準備資金の基準高に関する実績を作ろうと計画するに至つた。

五  そこで、その方法として、被告人及び家族や親戚の名義を使つて少額の郵便貯金をして郵便貯金通帳を入手し、これらの通帳を利用して現金を伴わない預入や払いもどしを行なった。例えば五〇万円の預入をし当日四九万九九〇〇円の払いもどしをすれば、差引計算して百円の現金を入れれば済むことになり、このような方法で多額の預入、払いもどしを行なつた。(このうち現在通帳がある分の預入の状態は原判決添付別表(二)に記載のとおりである。)

しかし、この方法では当日一日間だけの操作に終り、貯金が残らないことになるので、翌日まで残る貯金の体裁を作ろうと考え、ここに小切手による預入、払いもどしの方法をとることにした。先ず、かねて取引のある神戸銀行御影支店に十万円の預金をして被告人名義の当座預金口座を設けて小切手帳一冊を受領し、原判決添付別表(一)の番号1、2、3記載のとおり、昭和四二年三月一五日被告人名義の金額百万円の小切手三通を振出し、これをかねて用意しておいた寺岡兼治、大西正夫、松田喜明名義の郵便貯金通帳(各現在高二千円のもの)に証券預入の取扱があつたように部下職員に命じて処理させ、その翌日右小切手の決済前に払いもどすため、資金授受局である東灘郵便局の出納官吏に電話で現金三百万円を請求し、同日午後一時過頃の便で到着すると、右三百万円をもつて前日預入れ手続をした前記三名の通帳からそれぞれ百万円を払いもどしたように職員に命じて処理させ、右現金三百万円を直ちに神戸銀行御影支店における被告人名義の当座預金口座に振り込んで小切手の交換決済に間に合わせたのを始めとし、前記別表(一)の番号4乃至22記載のとおり同様の方法を繰り返えし、結局昭和四二年三月一五日から同年六月一二日までの間に合計金額二千八十万円に上る被告人名義の小切手二二通を振出し、右小切手が決済されないうちに払いもどした上、被告人振出の小切手の決済のため銀行当座預金口座へ振り込んだものである。

ところで、郵便貯金法三四条等によれば、小切手が決済された後でなければ、右貯金の現在高が右小切手による預入金額を下るような払いもどしをすることができない、すなわち、小切手が決済されないうちは、その小切手預入前の貯金現在高の限度内でしか払いもどしができないことになつているにもかかわらず、被告人は右規定に違反して業務上保管中の公金から払いもどしたもので、結局被告人が小切手の決済のため使つた公金は右二千八十万円から貯金現在高を差引いた二〇、七三七、四一〇円である。

六  以上のように、被告人は郵便貯金法の規定に違反して小切手決済前に業務上保管中の公金から払いもどしたものの、すぐ小切手が決済された結果、国に対し損害を与えていないものである。

また、被告人は本件の払いもどした金員を小切手の決済資金以外の自己の用途に使用したことはない。なお、現在の制度においては、特定郵便局が貯金の獲得により一定の歩合による利益を受けるようなことは全然なく、貯金獲得の成績をあげて郵政当局から表彰されることがあるとしても、新設局の場合は初めの一、二年間は単に賞詞をいただく程度で、金品を受賞することは期待できない。また本件のように預入れた翌日払いもどした場合には利息がつかないものであり、要するに、被告人は、本件犯行により自己のため経済上の利益を図る意思は当初からなかつたものである。

以上が本件犯行の動機及び態様である。

以上認定の事実に基づいて考察すれば、特定郵便局長である被告人は、自局の支払準備資金の基準高に関する実績を作るため、貯金の払出高を増加させる手段として、郵便貯金に預入した自己振出名義の小切手が決済されないうちに、郵便貯金法の規定に違反して、右小切手金額に相当する現金を業務上保管中の公金から払出し、その払出した金員をもつて自己振出小切手の決済資金にあてたものであるが、これにより自己の経済的利益を図る意思はなく、もつぱら、同局における支払準備資金を増加させることにより、多額の貯金の払いもどし請求にも即時応ずることができるように貯金者の便宜を図り、ひいて郵便貯金を増加させ郵便貯金事業の推進を図る目的でなされたものと認めるのが相当である。

もつとも、被告人が預入した自己振出名義の小切手の決済前に業務上保管中の公金から払出した行為だけをとらえてみれば、自己振出小切手が資金不足で不渡になるのを防止するため、その決済資金にあてる目的で払出したのであるから、被告人の利益のためになされたものともいえるものの、元来被告人振出小切手の預入、小切手決済前の払出、右小切手の決済という一連の行為を繰り返えしたのは、前記説示のとおり、同局における支払準備資金の基準高に関する実績を作るため貯金の払出高を増加させる手段としてなされたことは明らかで、ひいて郵便貯金事業の推進を図る目的でなされたもので、被告人の右のような一連の行為のうち「貯金の払出」はその目的達成の手段の核心をなす行為であり、従つて貯金の払出行為の目的を認定するについては、全体的に観察して評価すべきである。

なお、特定局に留め置くべき支払準備資金について合理的な基準を定め、不要な資金を留め置かないように規制されているのは、余分の資金を他に流用される等の弊害の発生を予防する趣旨であると思料されること、さらに預入した小切手の決済前に払出すことは郵便貯金法の規定にも違反すること等の事情に鑑み、被告人のとつた本件のような手段方法は甚だ行き過ぎたものというべきであるが、被告人としては、これにより何ら自己のため不正に利用しようという意思がなく、もつぱら貯金獲得の向上を願う熱心の余り、さきに認定したような考のもとに郵便貯金事業の推進を図る目的でなされたものと認められるものである。

そこで、郵便貯金に預入した被告人振出小切手の決済前に業務上保管中の公金から払出した行為が業務上横領罪になるかどうか、先ず横領罪の成立に必要な不法領得の意思があつたかどうかについて検討する。

横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは、他人の物の占有者が、委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思をいうもので、必ずしも占有者が自己の利益取得を図る意図があることを必要としないものであるが、右のような保管者の処分であつても、それがもつぱら本人のためになされたものと認められるときは、不法領得の意思を欠くものと解すべきである。

これを本件についてみると、特定郵便局長である被告人が、自局の支払準備資金の基準高に関する実績を作るため、貯金の払出高を増加させる手段として、郵便貯金に預入した自己振出の小切手が決済されないうちに、郵便貯金法の規定に違反して、右小切手金額に相当する現金を業務上保管中の公金から払出し、その払出した金員をもつて自己振出小切手の決済資金にあてたものであるが、これにより自己の経済的利益を図る意思がなく、もつぱら、同局における支払準備資金を増加させることにより多額の預金の払いもどし請求にも即時応ずることができるように貯金者の便宜を図り、ひいて郵便貯金を増加させ、郵便貯金事業の推進を図る目的でなされたものと認めるのが相当であるから、その目的達成の手段としてなされた右小切手決済前の払出行為は、不法預得の意思を欠き、業務上横領罪を構成しないものと解する。

従つて、原判決が、右事実について業務上横領罪の成立を認めたのは、事実を誤認し、ひいて法令の適用を誤つたもので、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点において原判決は破棄を免れない。

論旨は理由がある。

判示第二事実に関する事実誤認の主張について。

所論は、原判決が、判示第二事実として、「真実森岡宏好外一一名より預金の預入がないのにかかわらず、行使の目的をもつて、前記森岡宏好らから貯金を受け入れた旨の各虚偽の記載をなし、もつてその職務に関し虚偽の公文書である貯金預入報告書一一九通を順次作成した」旨認定しているが、同時に預入と払いもどしの取扱いをする場合、例えば十万円預入して即時五万円を払出す場合には、一旦十万円を受取り、再びその中から五万円を払出すという面倒な手続を省略して、差額五万円しか受取らないという便法が認められていることは、郵便貯金取扱規程二二条一項三号注二の規定により明らかである。本件について被告人は「別表(二)」記載のとおり、自己又は第三者名義で預金すると同時に相応額を払出し、その差額のみを現実に受払いしていたのである。従つて現実に通帳の預入金額と同額が預入されていなくとも、同時受払いの場合は払いもどし金額との差額のみが預入されておれば適法なのであつて、何等真実に反するものでなく、預入通知書を虚偽公文書ということはできない。原判決が「同時受払」の便法を無視し、預入の項のみをとらえ、預金がされていないことをもつて虚偽とするのは、事実を誤認しているものであると主張するのである。

そこで、本件についてみると、原判決末尾添付別表(二)記載のとおり、昭和四二年四月一〇日森岡宏好名義の現在高一、〇〇三円の郵便貯金を三、〇〇〇円の現在高にするため一、九九七円を預入れたのであるが、形式上取扱高を増やすため三〇万円を水増して三〇一、九九七円の預入があつたように取扱い、大阪郵政局貯金部へ提出する貯金預入報告書に、預金者氏名欄に森岡宏好、預入金額欄に三〇一、九九七円、その他所定の記入をなして提出し、一方同日右の三〇万円を二〇万円と一〇万円に分けて払いもどしたように取扱つたもので、以下同様の方法を繰り返えしたものであることが認められる。

ところで、所論のように、同時に預入と払いもどしの取扱いをする場合に差額のみを受払いするという便法が認められるとしても、それは実質上、通帳等に記載される金員の預入と払いもどしの事実が存在することを当然の前提としているものと解されるところ、本件は単に形式上貯金の取扱高を増加する操作として多額の金員の預入があつたように仮装するに過ぎず、真実、通帳等に記載の金員の預入、払いもどしの事実が存在せず、かつ預金名義人も被告人名義以外の十名はいずれも右貯金の預入には関係がなく、被告人が他人名義を使用しているに過ぎないものであるから、右貯金名義人らから多額の貯金の預入があつた旨の貯金預入報告書の記載内容は真実に合致しない虚偽のものであり、郵便貯金預入に関する公文書の信用を害するものといわざるを得ない。

従つて判示第二事実について虚偽公文書作成、同行使罪の成立を認めた原判決には、事実誤認や法令適用の誤がないから、論旨は理由がない。

不法に公訴を受理した違法があるとの主張について。

所論は、要するに、本件犯行は、被告人が貯金者の便宜を図り貯金の獲得が第一であると考え、職務熱心の余りなされたもので、自己の利益を図つたものでない等の情状を考慮すれば、本件起訴が一般の起訴猶予基準を著しく逸脱して起訴便宜主義を濫用したものである。たとえ起訴の手続が適式になされたとしても、その実質は不適法たるを免れず、本来の効力を生じない。従つて、原審としては刑訴法三三八条四号に則り本件公訴を棄却すべきであるのに有罪判決をするに至つたのは、不法に公訴を受理した違法があるものとして破棄を免れないと主張するのである。

しかし、本件(原判示第一、第二事実)が業務上横領罪、虚偽公文書作成、同行使罪を構成するかどうかについては慎重な検討を要するところであるが、検察官が本件犯行の動機、態様、規模等諸般の情状を検討し、業務上横領罪、虚偽公文書偽造、同行使罪が成立し、これを起訴すべきものと判断し、適式な手続を経て起訴したもので、これを目して一般の起訴猶予基準を著しく逸脱して起訴便宜主義を濫用したものとは認め難い。従つて所論は既に前提を欠くことから採用できない。

以上説示した理由により、原判示第一事実につき業務上横領罪の成立を認めた原判決には、事実誤認、法令適用の誤があり、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条、三八二条に則り原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所で判決する。

(罪となるべき事実)

原判示冒頭及び原判示第二事実記載のとおりであるから、これを引用する。(但し第二の字句を削除する。)

(証拠の標目)

原判決挙示の証拠の標目中、判示冒頭及び第二事実についての各証拠(但し被告人の検察官に対する昭和四二年七月一七日付供述調書を除く)

(法令の適用)

被告人の右所為中、各虚偽公文書作成の点は各刑法一五六条、一五五条三項、罰金等臨時措置法三条一項一号に、各虚偽公文書行使の点は各刑法一五八条一項、一五六条、一五五条三項、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当し、右各虚偽公文書作成とその行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので、刑法五四条一項後段、一〇条に(一括行使の点は同法五四条一項前段にも該当)従い、いずれも犯情の重いと認める虚偽公文書行使罪の刑に従い、一括行使の分については、いずれも犯情が重いと認める(中略)各虚偽公文書行使罪の刑に従うこととし、所定刑中各罰金刑を選択する。(被告人は郵便貯金獲得に役立たせようとの熱心の余り本件犯行に及んだもので、その手段方法において甚だ行き過ぎがあつたというものの、何等自己の利益を図つたものでなく、情状として斟酌すべき点があり、また被告人は局舎の設置等について経済的にも多大の犠牲を払つて多年の念願である特定局長になつたものであるが、本件について懲役刑(執行猶予)に処せられることにより公務員の資格を失わせることは酷に失すると思われるので、罰金刑を選択するのが相当であると認めた。)そこで刑法四八条二項により各罰金の合算額以下において被告人を罰金五万円に処することとし、刑法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金千円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、押収にかかる貯金預入報告書一一九枚(大阪高裁昭和四三年押第三六四号)の各虚偽記載部分は、いずれも本件各虚偽公文書行使罪の組成物件であつて、何人の所有も許さないから、刑法一九条一項一号、二項本文によりいずれもこれを没収し、当審における訴訟費用(国選弁護人に支給したもの)は刑事訴訟法一八一条一項本文により被告人に負担させることとする。

(一部無罪の理由)

本件公訴事実中業務上横領の事実(昭和四二年七月一八日付起訴状記載の公訴事実、原判示第一事実)は、前記説示の理由により業務上横領罪を構成しないから、刑事訴訟法三三六条により被告人に対し無罪の言渡をする。

よつて主文のとおり判決する。

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